雨に降られて解ったこと - 高橋伸夫 |
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97年の戸隠一泊探鳥会はいきなりの雨で、私だけが雨具をバスに忘れた。皆さんの御好意で、女性用帽子にゴミ袋のカッパ姿の探鳥。いつものことながら自分の情けなさを痛感する。あの2週間前、ロンドンのハイドパークも同じような雨であったが、公園の中に点々と生える巨木と強い雨の間に吹くサラリとした風のお陰で、冷たい思いをしないで探鳥を楽しめた。公園にいるほとんどの人も雨具を持っておらず、地形、気象や文化の違いはアウトドアライフのスタイルまでも変えているように思えた。 戸隠では東屋に逃げ込むまでの10分程、本降りの雨に叩かれた。そのとき着ていたセーターは超特価千円の代物であったが、一応純毛で、中まで水は通さなかった。会に入るまでゴルフをやってみえたLさんによれば、英国のカシミアセーターなら雨の中でプレーしても体を濡らすことがないとのこと。(ちくしょう、パリで掏られた金でカシミアのセーター買えたのに)ただし、いくらカシミアでも濡れた生地を手でこすれば水が染み込んでしまうという。ロンドンでガイドから「英国のカシミアは一生もの」などと聞かされたが、きめが細かくフンワリした生地の表面は何かに似ていた。 今年もまた梅雨の季節。水滴を通さず通気性の良いゴアテックスのカッパは、雨中の野外活動から不快感を一掃してくれた。ただし高価なので、貰い物でなかったら着ることはなかったと思う。パラパラと気持ち良く水滴を弾くのも永久ではない。 最近、私の所ヘカワウがやってきた。いつもべタベ夕の濡れ羽なので冷たくないのかと思っていたが、濡れた羽根の中にはカシミアのような綿羽が厚く密生している。綿羽は暖かく乾いて、皮膚は全く見えない。人に掴まれて綿羽の間の空気が無くなると、水が染み込んで皮膚に張り付き、体温を奪うことになる。空を飛ぶ鳥の体温は40度前後、人間なら頭がもうろうとして命を落としかねない高温である。当然脈も呼吸も早い。鳥はその高い体温を一定に保つため、フェザーと呼ばれる正羽の下に、ダウンと呼ばれる綿羽が発達しているのだ。 ![]() 細かく枝別れして重なる正羽の表面張力はゴアテックス。1本だけ抜けば大きく膨らむ綿羽は、子山羊の毛よりも遥かに細い。人が大変な手をかけて、細かい斜めの綾織にした山羊の毛でも、厚く密生した綿羽にはとてもかなわないだろう。昔、吉田川で見慣れたカワネズミの、気泡で銀色に輝く姿の意味が40年経った今、やっと解った気がする。きっと、彼らの皮膚は全く濡れていないのだ。 梅雨、雨の中で多くの鳥達が子育てをする。雨は外敵の動きを止め、光を遮蔽し、匂いや痕跡まで洗い流してくれる。雨は敵であり、大きな味方なのだ。首をすくめてじっと耐える鳥たち。羽根を立て、身震いして溜まった水滴を払い落とす姿。どれもわれわれの想像を越える苦労と、繊細で巧みなメカニズムの結晶なのである。 鳥を手にすると、すぐに羽毛は乱れ綿羽は湿る。しかし、野生の状態で濡れねずみの鳥は、水浴びを除けば異例である。親にはぐれたカルガモのヒナ、油汚れで正羽が萎んだ水鳥、逃げられないケージで雨にうたれたスズメ。どれも待つのは死である。 雨の季節の探鳥は、くれぐれも鳥たちを濡れねずみにさせないように。 contents | ||