翼とリズム - 高橋伸夫


 ファイバー樹脂・アモルファス・ゴアテックス等、夢の素材と呼ばれる人工物は数 多い。しかし、人知をいかに集めても、自然の創造物の機能に優るものはできていない。風切羽の構造をみてみよう。爪や鱗、髪の毛と同じ物質ながら、薄いパイプ状の羽軸の中にはさらに薄い補強材があり、内外弁は細かい枝と鉤の組み合わせで厚みもある。十分な強度としなやかさを兼ね備え、とにかく軽い。さらに復元性も備えている。

 鳥の翼の骨格は人と同じである。ただ、人差し指から小指までの4本がひとつの骨になっているだけである。その指や手の平から生えているのが「初列風切」。腕の部分から生えているのが「次列風切」である。鳥の飛ぶ姿は、風切羽と尺骨・上腕骨(腕)の長さで大体決まる。スズメ目の小鳥の多くは腕が短く、初列・次列の長さに差が少ない扇形。ツバメ・アマツバメ等は腕が短く初列が特に長い鎌形。アホウドリ・ミズナギドリは腕が長く風切の短いグライダー形。シギ・チドリやハト・ハヤブサなどは、腕の長さと風切の長さのバランスがとれた標準形といえるだろう。

 風切羽は体に近いものを上にしてきれいに重なっているが、この重なり方が重要である。翼を打ち降ろすときには空気を無駄なく捕らえ、持ち上げるときには隙間をあけ、できる限り空気抵抗を少なくして少しでも揚力を稼いでいるようである。



 大抵の鳥は主に打ち降ろす時に推進力を出す一方向型であるが、風切のしっかりしたアマツバメやハチドリ等では持ち上げるときにも大きな推進力が出る往復型である。普通の鳥では羽ばたきの度に、特に初列風切羽がたたまれる。同じ鎌形でもツバメとアマツバメでは羽ばたきの形が全く異なり、連続型では打ち上げの時にも風切の隙間を作らないので、アマツバメは翼を伸ばしたままの浅い羽ばたきで飛ぶ。扇形では翼の全てを速く深く打ち降ろすため疲労が大きく、間に休憩を入れなければとても筋肉がもたない。休憩の時、完全に翼をたたむと大抵は小鳥のような波状飛行となり、休憩の時も翼を伸ばして翼の揚力を利用すればキジやムクドリのような直線飛行になる。どちらが有利かは分からないが、タカが狙うとすれば直線の方が動きが読めるであろう。

 ベテランと呼ばれる人が飛んでいる鳥を一目で識別できるのは、シルエットや色・模様だけでなく、骨格や風切の長さのバランスの違いから、種によって微妙に異なる羽ばたきの深さや形、リズムの違いを経験的に身につけているからである。

 強風や病気・怪我・疲労、初飛行や渡り、その他の理由で、その鳥が尋常な体力や精神状態でないときには、羽ばたきの形やリズムがかなり変わってしまうことが多い。経験者が識別を誤るのはこんなときである。その要因を問わず誤りを云々する者は、その鳥の全てを知り尽くした者か、鳥の識別能力に疑問を残す者であろう。



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