作品を生かすも殺すも雨覆 - 高橋伸夫 |
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鳥の図鑑を見ていると「雨覆」という名前の羽根がたくさん出てくる。「大雨覆」「中雨覆」「小雨覆」「初列雨覆」「下雨覆」など。もっと細かく「初列小雨覆」「前縁雨覆」などというのもある。 これらの羽根に「雨覆」という日本名をつけた学者が今でも生きておられるとしたら、多分その命名に後悔しておられるものと思う。なぜならこれらの羽根は、主に鳥が飛ぶための航空力学的に機能しているものであり、傘や蓑のように主に雨や強い日差しを遮るためのものとは別の羽根だからである。 最近は写真図鑑が主流であるが、野外識別用の図鑑などでは描かれた図版であることが多い。こうした図版のなかには不自然な鳥が少なくない。体の各部位のバランスは大切であるが、私が最も気になるのは羽根の重なり方である。逆にいえば、描いた人がどれだけ鳥のことを知っているか、或いは、描いた鳥をどれだけ観察しているか分かるのが雨覆や肩羽だと思っている。特に識別の難しいといわれるシギの仲間やカモメの幼鳥などではこれらの羽根が識別の決め手であるし、多くの鳥で成幼の判定の手掛かりになる羽根である。だから芸術的な画家の作品より観察者の描いたものの方が本物に近い。作者の性格まで分かるものでもある。たとえば高野伸二さんは、よく知っておられるにも拘らずさりげない。初心者にも分かりやすいように、余分な羽根の輪郭は目立たないように描いておられる。氏原巨雄さんは識別派で、高野さんが分からないと言われた部分を徹底的に観察しておられるようである。1枚の羽根まで知り得た情報の全てを描こうとされる生真面目な方だと思う。これでもかと描かれた羽根の意味を理解できる人が少ないのは残念なことである。識別画の最高峰はスウェーデン人の Lars Jonsson であろう。彼の描いた作品は完璧に近いものが多い。但し、これは彼に限ったことではないが、よく観察しているものが完成されているだけに、そうでない鳥との差がはっきり表れてしまう。好きな分野の鳥でも、写真でしか知ら ないと思われる種を描いたものは見ていて楽しい。見える羽根と見えない羽根で出来栄えのギャップが大きい。その見えない羽根が雨覆なのである。 ![]() 開いた状態の翼を上から見ると、初列・次列・三列の「風切」と親指の部分にある「小翼羽」を除けばあとは全て「雨覆」である。たたまれた翼では肩羽や脇羽に隠されて「小雨覆」(厳密には「次列小雨覆」以下通常「雨覆」と表す場合は次列のものを指している)や「中雨覆」が見えないか、分かりにくい種も多い。「大雨覆」はたいてい見られるが、肩羽や次列風切との見分けは馴れないと難しい。小鳥のほとんどは「中雨覆」まで見えるだけでなく、この1列の羽根の先の白色部分が線となって目立つものも多い。しかもこの羽根はその下の「大雨覆」や「風切」の重なる形とは逆に、体から遠いものが上になっている。肩羽の重なりも同じである。だから観察の少ない人は「小雨覆」も同じだと思ったり、全ての鳥の全部の「中雨覆」が逆の重なりだと思い込んだりする。 「雨覆」は翼の表面を流れる空気を乱さぬための羽根である。低速になったときには乱れた空気に絡みついて体を浮かす大切な羽根なのである。 contents | ||