個体識別ノススメ - 高橋伸夫


 同じ種類で複数の鳥や動物を飼ったことのある人なら、いつのまにかそれらの区別がつくようになった経験があることと思う。個体の識別はイヌやドバトのように色や模様、大きさや形に変化の大きな種類ほど簡単で、ハツカネヅミや同じ品種のニワトリのように変化の少ないものほど時間がかかる。また体の大きな種類ほど容易で、小さなものは難しい。各部分の色や形の違いを見分けるのには大きなもののほうが分かり易いからである。

 「鳥でもそれぞれ顔が違うものだ」と言っても大抵は信じてもらえないが、全く同じ色や形をした鳥を見付けることのほうが難しいのが真実である。野鳥の場合、間近に姿を見ることが難しく、同じ鳥と何度も接する機会が少ないからであり、何度接しても見分けられないと思っているからである。

 人は互いに顔を見分けられると思っているが、果たしてそうであろうか? たとえばケルトやゲルマン、アラブあるいはアフリカなどの各人種の人とコミュニケーション無く接したら、再び再会しても分からないことの方が多いのではあるまいか。名古屋や東京の雑踏で行き交う人を、男と女、おおまかな年齢程度の確認はできても、全体では人間と識別しているだけで、それは水面に群れるホシハジロを観察することと大差ないことであろう。私はテレビで見る若い歌手やタレントを、何度見ても個体識別できないことの方が多い。個体識別に必要なのは、相手に対する興味の深さと観察の量。そしてどれだけ間近に観察できるかであって、その対象の種類ではないということである。ただし、間近に観察することは思ったより難しく、単純に人と小鳥の大きさの差を約10倍とすると、5メートルの距離で人を見るのと同じ大きさで小鳥を見るためには、2O倍の望遠鏡でも10メートルまで近寄らなければならない計算となる。



 野鳥は人に比べ体型や顔型に変化が少なく、皮膚の裸出部分もはるかに少ないので、皮膚にある小さな傷跡も見逃せない。幼羽と成羽、夏羽と冬羽では色や模様だけでなく部分的に羽根のボリュームまで変わるので、同じ鳥でもまったく違って見えることが多い。同じ個体を何年にもわたって識別するには、こうした基本的変化を頭にいれておくのも必要である。人が髪型や服装を変えても後ろ姿だけで分かるように、仕草や行動の癖が識別の手掛かりになることは多い。警戒心の程度など、個体によって性格の違いの大きなものもある。鳴き声、特に囀りは個体によって微妙に違っていることが多いので重要である。

 野鳥の個体識別で最も確実な方法はタグ、フラッグ、リングの装置であり、次いで奇形や部分白化などを探すことであるが、それでなければ識別できないものでもない。観察している鳥の多くを個体識別するのは不可能であるが、特定の1羽に限って識別するならば全く不可能ではないだろう。必要なのは熱意である。

 庭は野鳥に最も近づける場所である。あなたもひとつ、個体識別に挑戦してみてはいかがであろうか。





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