渡りの理由 - 高橋伸夫 |
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鳥はどうして苦労の多い渡りをするのか?今回はこの疑問について考えてみたい。渡りをする生き物は鳥だけではない。カツオ、サンマ、サケ、アユ、ヨシノボリなど、魚類のほとんどは回遊と呼ばれる渡りをしているし、哺乳類ではクジラ類やトナカイ、ウシカモシカなどが代表的と言える。爬虫類ではウミヘビやウミガメの仲間が有名であり、昆虫ではアキアカネやマダラチョウの仲間、イチモンジセセリなどがよく知られている。その他にもモクズガニ、ワタリガニなど水棲の節足動物などでもたくさん知られている。つまり渡りとは主に繁殖期とそれ以外の期間をより有利な環境で過ごすため、ある一定の周期とパターンで移動することなのである。鳥類はその翼で空中を速く自由に移動できることから、渡りをする生き物の代表と成り得たのである。 爬虫類を祖先とする鳥の故郷はおそらく熱帯か亜熱帯と思われるが、天敵の代表ともいえるヘビの仲間を例にとるまでもなく、温帯から亜寒帯、亜寒帯から寒帯へと、北へ行くほど、あるいは標高が上がるほど、より外敵の少ない場所での繁殖が可能なのである。北極圏の夏は短く、植物がいっせいに芽吹いてユスリカなどの昆虫が爆発的に発生する。雪解けの湿地は地面を移動する外敵の動きを遮る。カモやシギをはじめ、たくさんの鳥たちがより多くのヒナを育てるためには、地球上にこれ以上の環境が他にあるだろうか。究極の渡りをすることで有名なキョクアジサシは水棲動物が豊富な北極の夏に繁殖し、北極の冬を同じく水棲動物が大発生する夏の南極で過ごすのである。 南半球では鳥は北半球と全く逆方向の渡りをするはずであり、そうした鳥もたくさん知られている。しかしながら、シギ・チドリをはじめ、地球規模の渡りをする鳥の大半が北の国で繁殖して南で越冬するのはなぜか? 答えは世界地図に示されている。北半球で渡り鳥の故郷となっているのは北緯3〜40度から70度。日本を含みユーラシアおよび北アメリカ大陸の大半を占める温帯から寒帯の範囲である。ところが、南半球の南緯3〜40度から70度、北半球の温帯から寒帯にあたる部分のほとんどには陸地が無い。船乗りから航海の難所と恐れられる荒れた大海原がひろがるのみである。もし南極大陸が30度程オーストラリアかアフリカ、あるいは南アメリカに向かって北にずれた場所に位置していたらどうであろう? 北極と南極、各々で同じ種類(別の集団)が全く逆の渡りをしていたかもしれないし、1年に北極と南極で2回繁殖するシギ類やアジサシ類が存在していたかもしれない。 ![]() どうして鳥は、まだ餌の豊富な季節に渡ってしまうのかと聞かれたことがあるが、餌が無くなるまで留まった個体群は死に絶えたのである。また、春の渡りでは少しでも早く繁殖地に到着して縄張りを確保することも重要であろう。北極の春は覆われた雪の中で冷凍になった前年の昆虫が大切な食料であるという。 現在見る生き物の姿は全て何億年という命の歴史の結果なのである。 contents | ||